2000年5月 2日

第3話「登場!! 神か悪魔か真トゥハートロボ!!」B

=================================== ※この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビ ジュアル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです ===================================  浩之と志保は、追ってくるメイドロボ・インベーダーから逃げつつ、表へと 向かっていた。  ショットガンの弾も尽き、今はただ走るのみであった。 「ヒロ! もう少し!」  出口が見える。浩之は携帯用の手榴弾を取り出すと、ピンを抜いて奥に向か って投げつけた。逃げるふたりの背後で爆発が起こる。  出口から出たふたりが見たものは、苦戦するトゥハート3の姿であった。 「あかり! おれたちを乗せろ!」  コミュニケーターに向かって、浩之が叫ぶ。 『浩之ちゃん! わ、わかった! オープン・ハートッ!』  モニターに浩之と志保の姿を確認したあかりは、パネルを操作して機体に分 離指示を出す。  トゥハート3が分離し、3体のハートマシンとなった。  イーグル号とジャガー号が浩之たちの前に着陸し、あかりのベアー号はイン ベーダーを牽制する。  ハートマシンに乗り込んだ浩之と志保は、すぐにマシンを発進させた。 「よし、いくぜ!」 「浩之ちゃん、志保、あのインベーダー、すっごく素早いよ!」 「スピードならあたしにまかせて! チェンジ! トゥハート2!」  志保の掛け声と共に、ジャガー号の後ろにベアー号が、その後ろにイーグル 号が合体する。  側面からはドリルがついた右腕と、クローがついた左腕が伸び、後方からは 両足が伸びる。  ジャガー号の機首が展開し、頭部に変形した。 「ドリル・パーンチッ!」  合体を完了したトゥハート2は、右腕のドリルを高速回転させながらインベー ダーに空中から突進した。  インベーダーはそれをかわすが、ドリルがわずかにかする。  やや距離を取ったインベーダーが攻撃に転じる。身体中から触手をのばし、 トゥハート2を襲う。 「トゥハート・ビジョン!」  その触手が届こうかとする瞬間、トゥハート2の姿が消え、その攻撃を避け た。  トゥハートビジョンは、高速移動をすることで残像をつくり出し、分身した かのように見せる防御技である。  インベーダーの後ろを取ったトゥハート2は、ドリルを高速回転させ、空気 の渦をつくり出す。  その渦をインベーダーに向かって撃ちだした。 「ドリル・ストームッ!」  渦はインベーダーを吹き飛ばす。インベーダーは後方にあった岩に叩きつけ られた。  止めを刺すべく、志保はドリルを回転させながら、トゥハート2を突進させ る。 「いけぇーーーーーーっ!」  トゥハート2がドリルを繰り出す。  その瞬間、トゥハート2のドリルが打ち砕いたのは、インベーダーが叩きつ けられた岩だけであった。 「なっ!」 「志保! 後ろだ!」 「えっ!」  トゥハート2が振り向いた瞬間、首に触手が巻きついた。  続いて両腕・両脚、さらに胴体までからめ捕られる。 「し、しまった!」  身動きがとれなくなったトゥハート2を、インベーダーの触手が締め上げる。  トゥハート2のボディが、ギシギシと音をたてはじめた。 「な、なんて力なの!」  モニターに映る情報に、あかりが声を上げる。  スピードに特化したため、やや力が弱いトゥハート2はもとより、もっとも 力強いトゥハート3でもかなわないような力だった。 「志保! なんとか分離できないのか!」 「だめ! コントロールがきかない! ……きゃっ!」  志保が操作していたパネルが、小さな爆発を起こした。  いくつかの回路がショートを起こし、モーターが焼けはじめ、赤いアラート サインが少しずつ増えていく。  そして、ついにコクピットを取り囲むモニタースクリーンパネルにひびが入 りはじめた。 「これ以上は機体が持たないよ!」  あかりの悲鳴が響く。 「冗談じゃねぇぞ。こんなところで……」  時々途切れながらもスクリーンに映っているインベーダーをにらみつけ、浩 之が吠える。 「こんなところで…… やられてたまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 『……浩之さん……』  暗く広いとある部屋に、それは設置されていた。  巨大な影があかりと雅史から奪い去っていった、あのカプセルである。  どくん。  少しずつ、カプセルから発せられる緑色の輝きが明るくなってくる。 『……浩之さん……』  カプセルの中の人影が、少し動いた。  どくん。  まばゆいばかりに輝くカプセルが、震えはじめる。 『浩之さん…… 浩之さん…… 浩之さん!』  突如、カプセルが砕け散った。  その中から、ひとりの少女が飛び出す。  緑のショートヘア。耳につけられたカバー。白い水着のような薄手のスーツ。  その少女は、部屋の中央に立つと、大きな声で叫んだ。 「チェーーーーーンジ! 真! トゥハート・ワーーーーーーン!」  足元の床にひびが入る。ひびは大きく盛り上がり、その下から巨大な影が姿 をあらわした。  それにつられるかのように、天井も空に吹き飛ぶ。  少女を頭の上に乗せ、巨大な影は、その姿をあらわした。  トゥハート2が膝をついた。 「これまでか……」  トゥハートチームに絶望が襲いかかろうとしたその時。研究所の別棟のうち ひとつが、突如、緑色の光と共に空へと吹き飛んだ。 「なに!」  その場にあらわれたのは、巨大な人影。  あかりはその人影に見覚えがあった。 「あれは! 雅史ちゃんに怪我を負わせた……!」  その影は、インベーダーの方をギンと睨む。 「トゥハート・ビーーーーーーーームッ!」  少女の声が響くと、その影の額から緑色の光線が発射された。  その光線に包まれたインベーダーは、悲鳴を上げる間もなく消滅した。  トゥハート2は、全身から煙を吹き出しつつも、インベーダーの締め上げか ら開放された。 「あの声はまさか……。しかし、あれはいったい何なんだ?」  モニターに映るその影を見ながら、浩之はつぶやく。  そして、志保もまた信じられないものを見るようにつぶやいた。 「まさか、橋本博士は、トゥハートロボGだけではなく、こいつまでも完成さ せていたというの……」 「……志保、おまえ、こいつが何か知っているのか? こいつはいったい何者 なんだ! 志保! おれのわかるように説明しろ!」  その浩之の問いに答えたのは、志保ではなかった。 『それほどまでに知りたいのならば、教えてやろう』 「橋本!」  どこからか橋本の声が響いてきた。  浩之は必死に探すが、どこにも橋本の姿はない。 「てめぇ、どこに隠れてやがる!」 『これこそが、最強・最後のトゥハートロボ!』  昇りはじめた朝日が、その影を少しずつ照らしてゆく。  浩之たちの前に、その巨大な影が真の姿をあらわす。 『その名も、《真トゥハートロボ》よ!』 「真トゥハートロボだとぉ!」  トゥハートロボよりもふたまわりは大きいその巨大ロボットの姿に、浩之た ちは圧倒されていた。  そのとき、別の声がコクピットにあるスピーカーから聞こえてきた。 『うえぇぇぇぇぇん! 高くて怖いですぅ! 降りられませぇぇぇぇぇん!』  浩之たちは、思わずコクピットの中でずっこけた。 「この声、間違いない。マルチだな!」  モニターに映し出されたその姿。真トゥハートロボの頭の上にいるその少女 は、間違いなくマルチであった。 『ぶえぇぇぇぇぇん! ひろゆきさ~ん! 助けてくださあぁぁぁぁぁい!』  朝日が差し込む中、マルチの泣き声と、浩之たちの笑い声が、その場に響い ていた。 ※次回予告 橋本の乱を阻止することはできた だが、戦いはまだ終わってはいなかった 束の間の休息 新トゥハートチームの特訓 新たな戦いが間近に迫る! 次回「真(チェンジ!!)トゥハートロボ」 「インターミッション」 お楽しみに!

第3話「登場!! 神か悪魔か真トゥハートロボ!!」A

「トゥハートッ・ウィーーーーーーーングッ!!」  トゥハート1の背中にマントがひるがえる。  浩之は橋本とインベーダーを追って、トゥハート1を飛ばした。  前方に橋本が乗るドラゴン号とインベーダーが戦っている様子が見えた。  インベーダーの触手がドラゴン号の機体をかすめる。ドラゴン号は煙を吹い て、高度を下げ始めた。 「博士!」 「浩之ちゃん! 博士が!」  悲鳴を上げる志保とあかり。  橋本を追撃しようとするインベーダーに向かって、浩之は叫んだ。 「待ちやがれ! そいつはおれの獲物だぁ!」 =================================== 真(チェンジ!!)トゥハートロボ 第3話「登場!! 神か悪魔か真トゥハートロボ!!」 ※この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビ ジュアル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです ===================================  トゥハート1の肩からトマホークが飛び出す。それを右手でつかんだトゥハー ト1が、空中で大きく振りかぶった。 「トマホォォォォォォォォォクッ! ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥメランッ!」  トゥハート1が投げつけたトマホークが、インベーダーをまっぷたつに切り 裂く。 「ギィヤアアアアアアアッ!」 「トゥハートッ・ビィィィィィィィィィィィィィィムッ!」  インベーダーの残骸が、ビームで焼かれる。  舞い戻ってきたトマホークを、トゥハート1が受け止めた。 「浩之ちゃん、やったあ!」 「さあっすがヒロ。カンは鈍っちゃいないようね」 「ふん…… いくぞ!」  インベーダーに代わり、トゥハート1が降下を開始する。  廃墟となっている研究所前には、不時着したドラゴン号の姿があった。キャ ノピーは開き、機体の中に人影は無い。 「研究所の中に逃げ込んだか……。オープン・ハートッ!」  浩之はトゥハートロボを分離させると、イーグル号を着陸させた。続いて志 保のジャガー号とあかりのベアー号が着陸する。  ハッチを開いた浩之は、ショットガンを片手にイーグル号から飛び下りた。 「浩之ちゃん、どうするつもりなの!」  ベアー号から姿をあらわしたあかりの声が飛んだ。 「決まってんだろ! 橋本を追いかける!」 「これ以上、事情も知らずに深入りするのは危険だよ!」  浩之にこれ以上無理をさせたくないあかりは、必死に止める。  だが、浩之にその思いは届かない。 「事情なんてどうだっていい! おれは復讐が果たせればそれでいいんだ!」 「止めてもムダみたいね」  志保もまた、ジャガー号から飛び下りる。  銃に入っている弾を確かめ、ニッと浩之に笑いかけた。 「あたしも行くわ。あんたひとりじゃ、何しでかすことやら」 「……勝手にしろ」  浩之は志保に背を向け、研究所跡の入り口に向かって歩き始めた。 「浩之ちゃん! 志保!」 「あかりはここでハートマシンを守っていろ。1時間で戻る!」  研究所跡に入っていく浩之と志保を、あかりは複雑な表情で見送った。  真っ暗な中をハンドライトの明かりを頼りに、浩之と志保は進んでいく。  中は荒れ果ててはいたものの、浩之の記憶にある研究所そのままであった。 「いったい、なんでまたこんなことになったんだ?」 「そっか、ヒロは知らなかったのよね」 「いや、事故があったのは知っている。だが、原因はなんなんだ?」  コツコツと、ふたりの足音が響く。  浩之の質問に、うつむいて答える志保。暗さもあって浩之にその表情はわか らない。 「原因はわかってないわ。橋本博士が死んで、あんたが捕まって。そのあとす ぐに起きた謎の爆発事故」  志保は、思い出すように語り続ける。 「そのせいで研究中だった『トゥハートロボG』の試作品もデータも、すべて パー。結局、新型トゥハートロボの開発は真っ白の状態から再スタートになっ た。だけど……」 「橋本は生きていて、しかもトゥハートロボGを完成させて、量産までしてい たってか?」  その言葉に、志保は苦笑する。  世界有数を誇るKSSの情報収集システムでさえ、この橋本の反乱はつかめ ていなかった。それも、準備がこの橋本研究所跡で行われていたのである。ま さに灯台もと暗しであった。  浩之と志保は、すでに壊れているドアをくぐり、ひとつの部屋に入る。 「事故の後、しばらくはトゥハートエネルギーが放出されていたからね。デー タのたぐいも何も残っていなかったはずだし、後片付けは後回しにしたんでし ょ。偉いさんの考えそうなことよ」 「で、こうして誰もいないところができたってわけか」  次の瞬間、浩之と志保は向き合う。  浩之の銃は志保の額を、志保の銃は浩之の額を狙っていた。 「……約束したと思ったけど?」 「おめぇがおれとの約束を守ったことがあったか? 軽いお返しだ」 「……今のヒロには、本当に何を言ってもムダみたいね。結局、こうして銃で 語り合うしかないのかしら?」  浩之の目に志保が映り、志保の目に浩之が映る。  引き金にかけた指に、少しずつ力がこもっていく。  パン! パン! パン!  浩之の銃と志保の銃から、同時に銃声が鳴り響いた。「同じ目標」に向かっ て!  ギイィィィィィ……  暗がりから何者かが姿をあらわす。  それは、壊れたメイドロボであった。動くはずが無いそれは、ゆっくりと歩 いていた。  浩之と志保の銃弾を受けた胸から煙が上がっている。そして、その上にある 首は、トカゲのようなインベーダーのものであった。 「ちっ!」  志保が再び発砲する。弾はそのトカゲの頭を貫通するが、それはそのまま歩 いてくる。 「志保! どけ!」  浩之はショットガンを構え、発射した。その弾はメイドロボの上半身と共に インベーダーを吹き飛ばす。  しかし、暗闇の中からまた2体3体と、新たなインベーダーが乗ったメイド ロボがあらわれる。 「くそっ!」 「ヒロ、ここは逃げましょ!」  浩之と志保は部屋を飛び出し、出口に向かって駆けだした。後ろからメイド ロボたちが追いかけてくる。  その逃走の途中で、浩之が腕に着けていたコミュニケーターが鳴りはじめた。 「どうした、あかり!」 『浩之ちゃん、インベーダーが! 新しいインベーダーがあらわれたよ!』 「なんだと!」  研究所の外では、あかりの乗るベアー号が巨大なトカゲ――新たなインベー ダー――と戦っていた。必死に操縦するものの、イーグル号とジャガー号の自 動操縦を誘導しながらの戦闘では、限界がある。 「チェンジ! トゥハート3!」  あかりの掛け声と共に、ハートマシンが合体を開始した。  ジャガー号の側面にキャラピラが展開し、イーグル号がその上面後方に突き 刺さるように垂直に合体する。  ベアー号もまた、イーグル号に納まるように垂直に合体した。  蛇腹状の腕が伸び、箱状の頭部が展開する。  戦車の上に人の上半身を乗せたようなその姿こそ、トゥハート3であった。  本来は水中戦用の形態であるが、こうして地上で使用することもできる。 「行くよ!」  合体を完了したトゥハート3がキャタピラをうならせながらインベーダーに 向かって突進する。  伸びた両腕がインベーダーをつかんだ。 「必殺! 大雪山おろし!」  トゥハート3のその力で、インベーダーを上空へと回転させながら投げ上げ る。そして、インベーダーはこのまま回転しながら地面に叩きつけられるのだ。  この大技は、トゥハート3の正規パイロットである雅史が、高校時代に授業 で習った柔道を基に考え出したものであった。トゥハート3の力を利用した、 スポーツマンの雅史らしい技と言える。  サブパイロットであるあかりは、雅史からこの技を伝授してもらっていた。  しかし、インベーダーは地面に激突する瞬間に体制を立て直し、着地した。 そして、そのままトゥハート3に向かって跳躍する。 「トゥハートミサイル!」  トゥハート3の肩からミサイルが発射されるが、インベーダーはそれも空中 でかわす。  インベーダーとトゥハート3がすれ違った時、トゥハート3の右腕が肩から 吹き飛ばされた。  その衝撃がコクピットに走る。 「きゃああ!」

1999年9月 4日

第2話「トゥハートチーム集結! 悪のドラゴン軍団!」B

=================================== ※この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビ ジュアル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです =================================== 『いけません! 浩之さん!』  浩之の心に、緑色の髪の少女の姿が写った。  緑色の光が強くなり、トゥハート1の体が吹き飛ばされる。コクピットの中 で、浩之は呆然としていた。 「なぜだ……。なぜおまえがそこにいる!」  地上のトゥハートドラゴンたちが、上空のトゥハート1に向かってトマホー クを投げつけた。  トゥハート1の両腕が切り飛ばされ、体中にトマホークがつき立った。 「ぐはぁッ! こ、このぉッ!」  我に返った浩之はトゥハート1の体をひねり、体勢を取り直した。 「トゥハートッ・ビイィィィーーームッ!!」  上空から打ち出したビームは、地上のトゥハートドラゴンたちを全滅させた。  なんとか地上に着地したものの、トゥハート1は全身の傷口からオイルを吹 き出し、立っているのがやっとという状態であった。 「なぜだ……。なぜおまえが橋本のもとに……。うっ!」  傷だらけのトゥハート1の前に、ダブルトマホークを持ったトゥハートドラ ゴンが現れた。 「ここまでだな、藤田」 「て、てめぇ……」  そのトゥハートドラゴンに乗っていたのは橋本博士本人であった。 「ここまでよくやった。せめて最後はこのおれの手でとどめをさしてやろう。 貴様は理緒の仇なのだからな!」 「……確かに、おれとあんたはうまくいっていなかった。だが、理緒ちゃんの 一件、あれは誰が見ても、間違いなく事故だった!」 「事故? 事故だと? きさま、あの理緒の死を、まだ事故だと言い張るのか!」  二人の脳裏に、あの日の光景が浮かぶ。  ライガー号とドラゴン号の間でつぶれていくポセイドン号。  そして、その時ポセイドン号に乗っていたのが……。  トゥハートドラゴンがダブルトマホークを振り上げた。 「許さん! 許さんぞ! 藤田ぁ!」  橋本がトマホークを振り降ろそうとした瞬間、トゥハートドラゴンの足元の 地面が動いた。 「なにっ!」  地面からドリルアームが飛び出し、トゥハートドラゴンの左足を粉砕した。 そのまま、地面から1体のロボットが姿を現す。 「あれは、トゥハート2!」  トゥハート1とトゥハートドラゴンの間に現れたロボットはトゥハートロボ の高速戦闘形態、トゥハート2であった。  橋本のトゥハートドラゴンは、体勢を崩しながらもトゥハート2に斬りかか る。 「おのれ! ダブルトマホークッ!」  しかし、振り上げたトゥハートドラゴンの右腕に、黄色いじゃばら状の腕が 巻きついた。 「トゥ、トゥハート3まで!」  キャタピラの音と共にトゥハートドラゴンの背後に現れたのは、トゥハート 3であった。トゥハートドラゴンはさらにトゥハート3の腕に巻きつかれ、身 動きが取れなくなった。 「浩之ちゃん、怪我はない?」 「そ、その声は! あかり、トゥハート3に乗っているのは、あかりなのか!」 「うん、ひさしぶりだね、浩之ちゃん」  あかりのなんとなく場違いな声が聞こえた。トゥハート3に乗っているのは、 浩之の幼なじみで、トゥハートチームのひとりであった、神岸あかりだった。 「ってことは、トゥハート2に乗っているのは……」  浩之はトゥハート2の後ろ姿をにらみつけた。 「きさまかぁ! 志保おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!」  その日の夜。雨の中、研究所に呼び出された浩之は、銃声を聞いた。  現場に向かって駆けだす浩之。そして、到着した浩之が見たものは……。 「は、博士!」  眉間を撃たれて死んでいる橋本博士と、すぐそばに転がっている凶器と思わ しき拳銃であった。 「い、いったい、誰がこんなことを……。 !」  突然、窓から躍り込んできた人影が、浩之を襲った。右手に持ったナイフで 浩之に切りつける。  浩之はそれを転がって避け、同時に地面に落ちていた拳銃を拾って立ち上が った。 「きさま、何者だ!」  浩之は人影に向けて発砲した。浩之が撃った弾は、正確にナイフを弾き飛ば す。  人影はしびれた右手を左手で抑えた。  その時、遠くで光った雷が、その人影を照らしだした。 「し…… 志保……」  人影の正体は、血走った目をした志保であった。  志保は窓から飛び出し、そのまま逃走した。浩之はあわてて窓から外を見た が、すでに志保の姿はなかった。 「いったい、何がどうなってるんだ……?」 「浩之…… さん……」  後ろから声をかけられ、浩之が振り向く。声をかけたのは、研究所で使って いるメイドロボのHM-13セリオタイプだった。 「セリオ……」  声をかけようとした浩之は、セリオの視線に気づいた。  橋本博士の死体、浩之の顔、そして…… 浩之の右手に握られた拳銃……。 「浩之…… さん……」 「! ち、違う! 違うんだ、セリオ!」  右手から拳銃を取り落として、浩之は叫んだ。  セリオは振り向き、その場から逃げ出した。 「待ってくれ、セリオ! これは違う! おれじゃない!」  セリオからサテライトシステムを介して、警察とKSSに連絡が入った。  殺人の現行犯で、浩之は多数の警官に押さえ込まれ、逮捕された。 「違う! おれじゃない! おれじゃないんだ!」  遠くであかりと雅史が警官に向かって何か叫んでいるのが見えた。おそらく 浩之は無実だと主張しているのだろう。だが、その証拠は何もなかった。 「おれじゃない! おれじゃない! おれじゃない! おれじゃない! おれじゃないいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっっっっ!!」  トゥハート1に背を向けたまま、トゥハート2のパイロットは話しはじめた。 「ごめんね、ヒロ。悪いとは思っているわ。あの時、あたしもどうかしていた のよ。橋本博士の口車なんかに乗っちゃったから……」  トゥハート2に乗っていたのは、浩之の読みどおり、もとトゥハートチーム の長岡志保であった。 「ごめんですむか! てめえと橋本のおかげで、おれはなぁ!」 「浩之ちゃん! 志保はね!」 「いいのよ、あかり。許してくれなんて言わないわ。ヒロがあたしを恨むのは 当然だもの。だから……」  志保はトゥハート2を振り向かせると、右腕に装備されたドリルアームを、 浩之の乗ったトゥハート1に向けた。 「だから! 始末はあたしがつける!」 「志保! てめぇ!」  ドリルが回転を始め、撃ちだされる。  発射されたドリルは、動けないトゥハート1の脇をすり抜け、後ろにあった 巨大な岩に突き刺さった。  すると、その岩が巨大な生物に変化した。大きな声で叫ぶ、巨大生物。 「インベーダーだと! バカな! ヤツらは全滅させたはず!」 「そうよ! こいつらのために、あたしと博士は……」  インベーダーはその背に翼を生やすと、研究所に向けて飛び立った。 「い、いかん! まだ目覚めるのは早い! 早く制御せねば!」  インベーダーに気を取られたあかりの一瞬のスキを付き、トゥハートドラゴ ンから橋本が乗ったドラゴン号が分離する。そして、インベーダーを追って、 研究所へと向かって飛んで行った。 「逃げるか! 橋本ぉ!」  浩之は計器に目を走らせた。 「イーグル号は何とか使えそうだな……。 あかり! おれのイーグル号と合 体しろ! ヤツらを追いかける!」 「だめだよ、浩之ちゃん!」 「なにぃ!」  あかりの予想外の答えに、浩之はとまどった。 「今の戦いでわかったでしょう。トゥハートロボは、3つのハートマシンと、 3人のパイロットがそろって、はじめて本当の力が出せるんだよ。それは、浩 之ちゃんが言っていたことじゃない!」 「うっ! し、しかし、3人のパイロットと言ってもだな……」  浩之の視線はトゥハート2へと向いた。  トゥハート2のコクピットハッチが開き、志保が顔をのぞかせた。 「志保ぉッ!」  浩之はトゥハート1のコクピットを開けると身を乗り出し、懐から取り出し た銃で志保に狙いをつけた。 「浩之ちゃん! 志保!」  あかりも思わずコクピットを開け、その身を乗り出した。 「ヒロ、あたしを殺りたければ殺ってくれてもいいわ。でも、それはすべてが 終わってからにしてほしいの。それまで、あたしは逃げも隠れもしないわ。だ から……」  しばらく志保をにらんでいた浩之は、銃を収めた。 「わかった。その命、しばらくは預けておいてやる」 「浩之ちゃん……」 「ありがと、ヒロ」  浩之はシートに腰をおろし、操縦桿を握った。 「いくぜ、あかり、志保! ヤツらを追いかける!」 「行こう、浩之ちゃん!」 「オッケェ、この志保ちゃんにまっかせなさい!」 『オープン・ハートッ!』  3人が同時に叫ぶと、3体のトゥハートロボは9つのハートマシンに別れた。 その中から3つのマシンが飛び出す。  赤いイーグル号が先頭を飛び、それにグレーのジャガー号、黄色いベアー号 が続く。 「チェェェェーーーンジッ・トゥハート・ワァァァァァァーーン!! スイッチ・オォォォォォーーーーーーンッッッッッ!!」  浩之の叫び声とともに、3人が同時にレバーを倒す。ハートマシンが合体モー ドに入った。  志保の乗るジャガー号の後ろに、あかりの乗るベアー号が合体した。  ジャガー号からは腕が、ベアー号からは足がのび、ボディへと変形する。  そして、浩之の乗るイーグル号が頭部に変形し、ボディと合体したその姿こ そ。 「トゥハート・ワァァァァァァァァァンッ!!」  3体のハートマシンが一つとなり、トゥハート1へと合体した。 「トゥハートッ・ウィーーーーーーーングッ!!」  トゥハート1の背中にマントがひるがえる。そして、トゥハート1は橋本達 を追って飛び出した。 ※次回予告 橋本を追って、研究所に突入する浩之と志保。 そこで彼らが見たものは! 以前よりパワーアップしたインベーダーに、               トゥハートロボは絶体絶命のピンチに陥る! 突如現れた巨大な影! それははたして、敵か、味方か! 次回「真(チェンジ!!)トゥハートロボ」 「登場!! 神か悪魔か真トゥハートロボ!!」 お楽しみに!

第2話「トゥハートチーム集結! 悪のドラゴン軍団!」A

 橋本博士自慢のトゥハート軍団は、その圧倒的な力を見せつけた。  自衛隊にも出動要請がかかったが、戦力の差は火を見るよりも明らかであっ た。  トゥハートロボにはトゥハートロボ。  新型トゥハートロボはまだテスト中であったため、初代トゥハートロボの参 戦が検討された。  そして、トゥハートロボをもっともうまく扱える者として、『彼』の名があ がった……。 =================================== 真(チェンジ!!)トゥハートロボ 第2話「トゥハートチーム集結! 悪のドラゴン軍団!」 ※この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビ ジュアル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです =================================== 「どういうことなの! あたしたちを降ろすなんて!」 「今は、一機でも多くの戦力が必要なはずです!」 「いくらポンコツでも、無いよりマシでしょう!」  橋本博士の宣戦布告から一夜明けたその夕方。  来栖川綾香、松原葵、坂下好江の新トゥハートチームの3人は、突然の待機 命令に憤った。 「しゃあないやろ! 上からの命令なんや!」  出撃前の整備が行われているトゥハート1の前で、智子は3人を一喝した。 「もうパイロットは決まっとるんや!」 「なんですって! ま、まさか!」 「まさか、あいつを再びトゥハートロボに乗せるというのか!」  智子は複雑そうな顔をして答えた。 「そう、そのまさかや……」 「そ、そんな! ひどすぎます! 先輩は、先輩は、絶対に人殺しなんてして いません! それなのに!」 「わかっとる!」  智子の声に、興奮して叫んでいた葵は我に返った。 「わたしかて、あいつがやったとは思うてない。けどな、やってないっちゅう 証拠がない以上、これ意外にあいつが自由になる方法はないんや……。いくら 仮釈放でも、刑務所よりはマシやろ……」 「しかし、いくらほかに方法がなかったと言っても、永久囚人を使うとは」 「それも仮釈放が条件とはいえ、橋本博士を殺した本人に、もう一度殺させよ うっていうんだからな」  先日怪我をした雅史が入院しているKSSの医療施設から、トゥハート1の 出撃準備の様子が見えていた。  その様子を見ながら、ふたりのエージェントが話している。  到着したヘリから『彼』が降りてきた。  『彼』はマフラーを覆面のように頭に巻き付けており、顔は見えなかった。 だが、その眼光は異常に鋭かった。  巨大な赤鬼を思わせる姿のトゥハート1。その頭部に、コクピットはあった。  リフトが『彼』をトゥハート1のコクピットまで持ち上げていく。 「まあ、ヤツならやってくれるだろう」 「ああ……。元トゥハートチームリーダー『藤田浩之』ならば!」  浩之は顔に巻いていたマフラーを投げ捨て、トゥハート1のコクピットに乗 り込んだ。 「トゥハートッ・ウィーーーーーングッッッッッ!!」  トゥハート1の背中にマントが現れると、一気に上空へと飛び立った。  浩之は現場に向けて、トゥハート1を飛ばせた。 「なんだって! 浩之が出動した!」  トゥハート1が飛び立つ爆音で目を覚ました雅史は、そばにいたエージェン トの一人に掴みかかろうとしたが、傷の痛みにうめいた。 「無理をするんじゃない。なあに、あいつにまかせておけば大丈夫さ。きっと 橋本の首を持って帰るに……」 「そうじゃない! 今の浩之に戦わせたりしたら、今度こそ間違いを……!」  その時、病室の入り口から、カシャンという音がした。一同がそちらを向く と、そこにはあかりが立っていた。あかりの足元には水差しが倒れ、中に入っ ていた水が床に広がっていく。 「あかりちゃん……」 「今の…… 本当……? 浩之ちゃんが…… 出動したって……」  雅史は何も答えられなかった。  あかりは振り向くと、廊下を駆けだした。しかし、すぐに一人の女性が待ち かまえているのに気付き、足を止めた。 「あ!」 「ハァイ、あかり、ひさしぶり!」 「すべてが今、始まりました」 「…………」 「そうですね……。これから人類が迎えるのは、明日という名の希望なのか」 「…………」 「それとも、破壊という名の絶望なのか……」 「…………」 「それは、神のみぞ知ること……」 「だが、報いは受けなければならん! そう、その本質がなんであるか知ろう ともせず、無限のエネルギー・トゥハート線をもてあそぼうとしたおろかな者 どもよ! さあ、世界最後の夜明けに懺悔せよ! ウワーッハッハッハ!!」  研究所の屋上で、橋本は大きく笑っていた。 「うるせぇ!! それはてめえのやるこったぁ!!」 「なにっ!」  上空から浩之の操縦するトゥハート1が、橋本が操るトゥハートドラゴンが 埋めつくす現場に降り立った。 「藤田!」 「ひさしぶりだなぁ、橋本ぉ! どうやって生き返ったのか知らねぇが、この おれが引導を渡してやるぜ!」  浩之の叫びと共にトゥハート1の両腕にハンドガンが現れ、浩之はそれを撃 ちまくった。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」  トゥハート1を取り巻いていたトゥハートドラゴンが、次々と砕け散ってい く。 「やめんか!」 「むっ!」  浩之は橋本の方を向いた。 「それ以上はお前のためにならん! だがな、ここはよく来たとほめておこう か。この裏切り者め!」 「だまれぇ! てめえがトゥハート線を利用して何を企んでいるのか、おれは 忘れちゃいねぇ! それに、てめえはどのみち死ななきゃならねぇんだ。それ なら、今度こそ、このおれの手で!」 「……理緒の時も、そう言ったのか?」 「! だ、だまれえぇぇぇぇッ!」  トゥハート1が走り、パンチで目前のトゥハートドラゴンの顔面を粉砕する。 さらに迫り来る別のトゥハートドラゴンを、トマホークで切り捨てた。 「トゥハートッ・ビイィィィィーーーーーームッ!!」  トゥハート1の腹から発射されるビームが、次々とトゥハートドラゴンをな ぎ倒して行った。 「さすがは元トゥハートリーダー。一筋縄ではいかんようだな」  橋本は椅子に座ると、そこに付いていたスイッチを押した。  トゥハート1が立つ足元の地面が、突如上空へと舞い上がった。それととも に、トゥハート1の体も空中へ打ち上げられる。 「なにっ!」  地面から飛び出したのは、無数の青い影であった。 「トゥハートライガー!」  空中で無数のトゥハートライガーに取りつかれ、トゥハート1は動けなくな った。 「とどめだ」  地上から上空のトゥハート1に向け、トゥハートポセイドンのストロングミ サイルが一斉に発射された。無数のストロングミサイルがトゥハート1を取り 囲んだトゥハートライガーのかたまりに当たり、爆発を起こす。 「やったか!」  爆発の煙の中から、3つの影が飛び出した。それは、トゥハート1が分離し た、3体のハートマシンであった。 「なめるなぁ!」  そのまま研究所上空へ昇ったハートマシンは、再びトゥハート1に合体する。 そして、トマホークを構えながら、橋本をめがけて飛び下りてきた。 「これで終わりだあッ!」 「藤田あッ!」  トマホークが橋本に向かって振り降ろされる。  しかし、刃が橋本に届く直前、緑色の光が橋本を覆った。その光がトマホー クをはじいていた。 「な、なにぃッ!」 「藤田よ、お前が今何をしているのか、わかっているのか! 今このおれを殺 せば、世界は終わりを迎えるのだぞ!」 「うるせぇ! この世がどうなろうと、知ったこっちゃねぇ! おれはただ、 おれ達仲間をバラバラにしたてめぇと、あとひとり、志保のヤツをこの手でブッ 殺せれば、それでいいんだからなぁ!」  浩之がそう叫んだその時。 『いけません! 浩之さん!』  浩之の心に、緑色の髪の少女の姿が写った。  緑色の光が強くなり、トゥハート1の体が吹き飛ばされる。コクピットの中 で、浩之は呆然としていた。 「なぜだ……。なぜおまえがそこにいる!」

1999年5月14日

第1話「すべての終わり・すべての始まり」B

=================================== この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビジュ アル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです ===================================  あかりと雅史が謎の影に襲われた翌日。  KSSの特殊部隊であるHEART(ハート)部隊は、奪われたカプセルの探索 と影の正体の解明に全力をあげていた。  HEART-23(ニイサン)部隊の隊長である保科智子は、指令室で次々と届けら れる情報に目を通していた。しかし、有力な手掛かりは見つからなかった。 「はあ……。荷物には発信機も付いてたっちゅうのに、なんで見つからへんの や」 「……隊長、トゥハート線反応です」 「なんやて? どこや?」 「浅間山のふもと……。『橋本トゥハート線研究所』跡ですね」 「……どういうことや? もうあそこで研究はされてないはずやろ」  橋本トゥハート線研究所は、かつて橋本博士がトゥハート線の研究をしてい た場所である。橋本博士の死後、謎の爆発事故が起き、閉鎖されたのだった。  智子の報告を受けたKSS上層部は、部隊の一部を浅間山に向かわせた。 「HEART-13部隊から入電! HEART-11、12、14部隊は全滅! 13部隊も壊滅状 態!」 「なに! そんなアホな!」 「続いての情報です! 敵機動兵器は『トゥハートロボG』と確認!」 「な、なんやてぇ!!」  モニターに無数のトゥハートロボGが次々とHEART部隊の兵器を破壊してい く、浅間山の様子が映しだされた。  それはあまりにも一方的な破壊と殺戮であった。トゥハートドラゴンのビー ムが、トゥハートライガーのドリルが、トゥハートポセイドンのミサイルが、 戦場を飛び交っている。  トゥハートロボGはトゥハートロボの強化量産形である。  インベーダー撃退後、橋本博士は再度の侵略を予言し、トゥハートロボの強 化量産の研究を始めた。  ドラゴン号・ライガー号・ポセイドン号の3体のハートマシンから構成され るトゥハートロボGは、トゥハート線増幅装置を内蔵しており、初代トゥハー トロボの10倍のパワーを持ちながらも量産性にすぐれたものになる予定であっ た。  しかし、完成前に橋本博士が殺され、開発は中断されていたのだった。 「なんや、何が起こっとるんや?」 「…………」 「彼が、動きだしたようですね」 「あ!」  指令室にやって来たのはKSS総隊長の来栖川芹香と、秘書を勤める姫川琴 音であった。 「総隊長、なんでここに……」 『ふふふふふ。いかがかな、わがトゥハート軍団の威力は』 「なんや!」 「通信に割り込まれています!」 『見れば、なつかしい顔が揃っているではないか』 「そ…… その声は、まさか!」 『怯えることはなかろう。我が名は橋本、地獄より帰った男よ。そう、この世 の最後の夜明けを見るためにな』  モニターに白衣を着た男の姿が浮かび上がった。顔色は少し薄暗く見えるが、 確かにその男は3年前に死んだはずの橋本博士であった。 「バ、バカな……」 『研究は発表されねばその価値はない。でなければ、浮かばれぬ。不幸が許し てはくれまい』  それが、橋本博士の全人類に対する戦線布告であった。 ※次回予告 圧倒的戦力の橋本軍団を前に、成す術がないKSSおよび日本軍。 最終手段として、橋本殺しの罪で投獄されていた浩之に出撃命令が下った。 復讐を果たさんがため、トゥハートロボに乗り込む浩之。 運命の歯車が、今、回りはじめる! 次回「真(チェンジ!!)トゥハートロボ」 「トゥハートチーム集結!! 悪のトゥハートドラゴン軍団!!」 お楽しみに!

第1話「すべての終わり・すべての始まり」A

 それは10年前のこと。  当時大学生だった橋本博士は、偶然にもトゥハート線の採取に成功した。  トゥハート線は未来のエネルギーとして期待され、来栖川重工が開発してい た宇宙開発用のロボットにも採用されることになった。  その1年後。人類はかつてない危機に見舞われることになった。  突如、宇宙からやって来た侵略者(インベーダー)が、地球侵略を開始した のである。  月は瞬く間に占拠され、その魔の手は地球にも及ぼうとしていた。  国連は世界各国に協力を要請、技術の粋を集めたロボットが世界中で作られ た。  スーパーロボット軍団の誕生である。  日本からは来栖川重工が宇宙開発用に設計していたロボットを強化改良し、 戦闘ロボットとなった「トゥハートロボ」が誕生した。  トゥハートロボは、3つのロケットマシン ── イーグル号、ジャガー号、 ベアー号 ── が3通りの合体をし、空戦用の「トゥハート1(ワン)」、 陸戦用の「トゥハート2(ツー)」、海戦用の「トゥハート3(スリー)」の 3形態になることができる、画期的なロボットであった。  パイロットには若き少年少女たちが選ばれた。  イーグル号とトゥハート1には藤田浩之。  ジャガー号とトゥハート2には長岡志保。  ベアー号とトゥハート3には佐藤雅史。  そして、予備パイロットに神岸あかり。  3年に及ぶ月面戦争の末、人類は辛くも勝利した。インベーダーを全滅させ ることに成功したのである。  人類滅亡の危機は過ぎ去ったかに見えた。  だが……。 =================================== 真(チェンジ!!)トゥハートロボ 第1話「すべての終わり・すべての始まり」 この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビジュ アル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです ===================================  すべては、ある嵐の夜に始まった。  トゥハート線研究の第一人者である橋本博士が殺されたのである。  偶然居合わせたメイドロボの証言とメモリーに記録されていた映像から、犯 人は元トゥハートロボのパイロット藤田浩之と判明した。  浩之は終身刑を言い渡され、永久刑務所入りとなった。  今から3年前のことである。 「こちら輸送班。予定通りに進行中。どうぞ」 『了解。準備も予定通り。計画どおりにすすめられたし』 「了解」  降りしきる雨のなか、一台の巨大なトレーラーが山道を走っていた。  運転席には一組の男女。共にKSS(来栖川セキュリティサービス)の制服 を着ている。  定時連絡を終えた助手席の女性は、ふう、と息をついた。  そして、隣で運転する男性に話しかける。 「いったい何事なんだろうね、雅史ちゃん。こんなに厳重な体制なんて」 「わからないよ。元トゥハートチームのぼくとあかりちゃんが呼び出されたん だから、ただごとじゃあないだろうけど」  あかりは窓の外を見た。あいかわらず雨は降り続き、遠くで雷がなっている。 「……3年前のあのときも、こんな嵐の晩だったね……」  雨の中、多くの警官に引きずられていく浩之。必死に彼の無実を主張したが、 聞き入れてもらえなかった。  無理もない。彼が無実である証拠は、なにひとつなかったのだから。 「あのころは…… 楽しかったのに……」 「……やめようよ、あかりちゃん。もう忘れよう」  雅史の方を向いたあかりは、声をあげた。 「雅史ちゃんだって、浩之ちゃんがやったとは思っていないんでしょう! だっ たら!」 「いいから忘れるんだ! その方がいい!」  車内に一瞬の静寂。雅史はゆっくりとつぶやく。 「……理緒ちゃんが死んだことも……」  車内に沈黙が訪れる。  そんなふたりは、道沿いにあった大木が消えていることに気がつかなかった。 「かつて、雷のみが愛しい死者に再び生命の灯し火を与えることのできる唯一 のものと信じられていた時代がありました。もちろん、物語の中の世界で、で すが」 「だが、物語と現実を隔てていた壁は崩れ落ちたのだ」  来栖川重工研究所の一室で、男女が話していた。  女はテーブルの上にあった割れたグラスの破片を右手に握った。 「しかし、彼女は血を流すことができますか? そう、ひととして……」  女の右手から血が流れだす。 「……さあな。それこそ神のみぞ知ると言ったところか……」  あかりと雅史は目的地である来栖川重工研究所に到着した。その時には雨も あがっていた。  ふたりはトレーラーのコンテナに大きな箱が積み込まれるその間、KSSの 隊員たちとともに警戒をしていた。 「な、なんだ、あれは!」  誰かの声に、一同はそちらを見る。そこに立っていた大きな樹木が変貌を開 始し、巨大な怪獣になったのである。 『キシャアァァァァァ!』  怪物が叫ぶと、身体中から無数の矢が撃ちだされた。何人もの隊員たちが、 その矢に撃ち抜かれる。  あかりと雅史は木の影に隠れた。 「あ、あれは、インベーダー!」 「そ、そんな! 全滅させたはずじゃあ!」  生き残った隊員たちとともに発砲を開始するが、インベーダーにダメージは なかった。 「あかりくん! 佐藤くん! 何をやっているんだ! はやく、はやく車を!」  突然、建物のほうから声がかかった。ふたりがそちらを見ると、ひとりの男 が叫んでいる。 「な、長瀬さん!」 「どうして!」 「はやく車を出せ! こいつらに奪われては…… うわぁ!」  その男、長瀬源五郎は、建物に駆け寄ってきたインベーダーに捕らえられた。  その時、その隣の建物の天井が開きはじめた。中から巨大なドリルが姿を見 せる。  ドリルアームがインベーダーを貫いた。ドリルの持ち主である巨大ロボット が、建物のなかからゆっくりと出てきた。  ロボットは左手のクローで長瀬を救い出すと、本格的に攻撃を開始する。 「な、なぜ、『こいつ』がこんなところに……」 「雅史ちゃん、それよりもはやく!」  あかりと雅史はトレーラーに飛び乗ると、急発進をさせた。 「あとは頼んだぞ! あかりくん! 佐藤くん!」  激化するロボットと怪物の戦いを背に、あかりと雅史はトレーラーを走らせ た。  あかりと雅史、そして、大きな箱を乗せたトレーラーは、トンネル内を走っ ていた。 「雅史ちゃん、見た? あれは確かに『トゥハート2』だよ……」 「うん……。でも問題は、あれに誰が乗っていたのかってことだよ」  トンネルを抜け、再び夜道を走ろうとするトレーラー。  その時、トンネルの上から何かがトレーラーのコンテナの上に落ちてきた。 あかりと雅史はその振動に驚いたが、すぐにモニターを使って原因を確かめた。  落ちてきたものは、先ほどとはまた別のインベーダーであった。 「しまった、待ち伏せ!」  インベーダーはその両手を刃物状に変形させ、コンテナの屋根を壊しはじめ た。 「荷物を狙っているんだわ!」 「そうはさせない!」  インベーダーを振り落とそうと、雅史はハンドルを右に左にと切った。しか し、インベーダーは平気で屋根を壊す作業を続けていた。  あかりがパネルを操作すると、トレーラーの屋根にミサイルポッドが現れた。 ミサイルがインベーダに向かって発射されるが、インベーダーは体を変形させ てそれをやりすごす。 「だめだわ!」 「あかりちゃん、ハンドルを頼むよ! ぼくがやる!」 「わ、わかった!」  雅史が座っていたシートが後ろへ移動し、コンテナの中へと消えていく。  そのころ、インベーダーはコンテナの天井を剥がし、目的の箱を見つけてい た。その箱をつかみ、外へ取り出そうとする。  突然、コンテナの側面が破れ、そこから蛇腹状のパイプのようなものが飛び 出した。その蛇腹はあっというまにインベーダーをがんじがらめに捕らえる。 「いくぞ、トゥハート3!」  雅史がレバーを倒すと、コンテナの中からトゥハート3がその姿を現した。 インベーダーをとらえた蛇腹は、トゥハート3の腕だったのだ。  雅史が乗ったトゥハート3がさらに締め上げると、インベーダーが悲鳴を上 げた。インベーダーがつかんでいた箱をトゥハート3がつかみ返す。 「悪いけど、こいつは渡せないんだ……。うん?」  雅史はモニターに映っている箱が少し壊れていることに気づいた。その隙間 から中にカプセル状の物があることが見て取れた。そして、そのカプセルの中 に人影があることにも気づいた。 「あ、あれは!」 「雅史ちゃん、どうしたの? ――ん?」  あかりは前方に巨大な「影」を見つけた。その「影」はカーブの外側に仁王 立ちをしていた。 「な、なに、あれ!」  カーブにあわせてハンドルを切るあかり。インベーダーとトゥハート3を乗 せたコンテナが大きく横に滑る。  「影」は大きく右腕を振り上げ…… トゥハート3に殴りかかった! 「なっ!」  殴られたトゥハート3がコンテナの上から吹き飛ばされる。 「うわああああ!」 「雅史ちゃん!」  トゥハート3がつかんでいた箱がこぼれ落ち、地面に落ちて壊れた。中に入っ ていたカプセルが転がる。  遠くで光った稲光が「影」を照らしだす。吹き飛ばされながら、雅史はその 姿を確認した。 「ぼくの…… ぼくの知らない…… トゥハートロボ!!」  次の瞬間、トゥハート3は後ろにあった岩肌に叩きつけられた。 「がっ!」  背中から叩きつけられた衝撃に、雅史は血を吐いて気を失った。 「雅史ちゃん!」  急ブレーキをかけてトレーラーを止めたあかりは、その様子を見て叫んだ。  インベーダーはコンテナから飛び降り、地面に転がったカプセルをつかんで 逃げ去ろうとしていた。  しかし「影」があっという間に追いつき、インベーダーを襲った。  トレーラーから降りたあかりは、信じられない光景を見た。  「影」はインベーダーを易々と引き裂いたのである。信じられないパワーで あった。その闘いは1分もかからずに終わった。  そして「影」はインベーダーからカプセルを奪い取った。  あかりは「影」の胸にあるハッチが開き、そこから人影が現れたのを見た。  再び光った稲光が、その人影を照らしだした。 「そ、そんな!」  その姿は、3年前に死んだはずの男だった。  巨大な「影」の背中に翼が開き、一瞬にして大空に舞い上がった。  そして、そのまま飛び去っていったのである。  再び雨が降りだした。あかりはその雨のなか、茫然と立っていた。