1999年4月25日

サイキックフォース2

 それは、バーンのアパートに届いた一通の手紙から始まった。 「ちょっとちょっと、バーン、エミリオ! 出演依頼だよ! ほら、今度は 『サイキックフォース2』だって!」 「ほんとかよ、ウェンディー。どれどれ……。お、ホントだな。今度はおれに も最初から来てるじゃねぇか」 「へえ、また出演させてもらえるんだね」 「今度はちゃんと衣装があるんだろうなぁ。2012の時は予算がないとかで、お れだけ前と同じ衣装だったからなぁ……」 「ねえ、ぼく、またメ○ルスーツを着ないといけないのかな?」 「え~っと……。2012をベースにするって書いてあるから、そうなんじゃない かな。……あら、ソニアお姉ちゃんたちも出演するんだ」 「そのとおりよ!」  アンチノアの3人がその声のした方へ振り向くと、窓からソニアが入ってき た。 「お、お姉ちゃん!」 「……ドアから入ってきてくれねぇかな?」 「うふふ、前回は残念ながら出られなかったけど、今回はサイキックフォース 真のヒロイン、ソニアの復活なのよ!」  どうやらすでに自分の世界に没頭し、バーン達の声は耳に届いていないらし い。 「そうよ、今度こそキースさまとらぶらぶエンディング! そしてそのままパ ソコン版に移植され、そこで既成事実を作って、あたしは晴れて総帥婦人!」 『をいをい……』  すでにアンチノア3人は呆れ顔であった。 「……ところで『きせいじじつ』って、なあに?」 「……おめぇもオトナになったらわかるよ……」 「そういえば、お姉ちゃん、最近(ピーッ)キロ太ったって言ってなかったっ け?」 (ぎくぅ!)  ウェンディーのなにげないひと言に、ソニアは固まってしまった。 「え? そうなのか?」 「うん、前回出られなかったからヤケ食いして、太っちゃったって……」 「そういえばソニアさん、ちょっとふくよかになっているような……」 「いっ、いやああああぁぁぁぁぁぁぁ! こんな姿、キースさまにお見せでき ないいいいいぃぃぃぃぃっ!!」  頭を抱えて叫びだすソニア。  まずったかなー、と思いつつも、まあ自業自得よね、と思いなおすウェンディー であった。 「困ったときに、リチャード=ウォン!」  ちょうどその時、そんな声と共に、ウォンがキッチンから現れた。 「……なんでおめーらはちゃんと玄関からはいらないんだよ……」 「そんな小さなことを気にしていては、大きくなれませんよ。それはそれとし て、ソニア、あなたのボディを作ったのはこのわたし。わたしの手にかかれば 問題はありません。これを『心配無用』と言います」 『いわねーよ』  まるで打ち合わせてあったかのように全員がツッこむ。 「ウォン特製『スグヤセール』(SE:ビカビカビカー(C)ド○えもん)!! こ れを飲めばすぐに標準体重になるというすばらしい薬です!」  うっわー、うさんくさいネーミング! と、全員が思ったのは言うまでもな い。 「……ちょっと怖いけど、キースさまのために飲むわ!」 「お、お姉ちゃん、やめた方が……」  ウェンディーの制止も聞かず、ソニアはビンの中身を一気に飲み干した。  かたん、と、ソニアの手からビンが落ちる。 「お、お姉ちゃん?」 「う、うううっ……」  しゃがみこんで苦しみだすソニア。一同は心配そうにソニアを見つめる。 「う、うあああああああっ!」 「お、お姉ちゃん!」  ぼふっ! と煙が立ちのぼる。が、すぐに煙は晴れた。 『な、なんじゃこりゃあ!』  そこにいたのは、異常なまでに髪が伸びたソニアであった。 「おっと、どうやらわたしが興味本位で作った毛生え薬と間違えたようですね」 「ふぅ~ん」 「興味本位ねぇ~」 「……」  なぜだか一同はウォンの額を見つめる。  その時、ソニアがゆっくりと顔を上げた。 「ウ……ォ……ン……」  その声は、地面から響いてくるがごとく低いものであった。 「うらああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ! ウォン!  てめぇ、何飲ませやがったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 『うっわー! なんだなんだなんだぁ!』  その恐ろしい声は、あろうことかソニアのものであった。美しい顔は鬼のよ うな形相になっていた。 「おや、パティで実験したときは問題なかったのですが、どうやらバイオロイ ドとは相性が悪いようですね。加えて作者が最近『痕マスター』になったせい もあるのでしょうが(笑)」 『どひいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』  バチバチと放電しながら、ソニアはゆっくりと一同に近づいてきた。 「どうやらわたしは消えたほうがよさそうですね。では……(しゅわん)」 「ああ! て、てめぇ、ひとりだけ逃げてるんじゃねぇ!」 「お、お姉ちゃん、正気に戻ってぇ!」 「あ~ん、怖いよぉ!」 「うらああああああああああああああああああああああああああああああ!」 『や、やなかんぢいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』  その日、バーンの部屋から轟音が響きわたったという。  一方、そのころキースは……。  隠しキャラの「殺意の波動に目覚めた琴音」で「Heart by Heart」を遊んで いるのであった。  めでたしめでたし。

1999年4月11日

Feeling Heart 裏版

 ノア本部のある夜。  廊下を歩いていたソニアは、キースの部屋から明かりが漏れているのに気付 いた。 「まだ起きていらっしゃるのですか? キースさま?」  軽くノックして部屋を覗くソニア。  紫色の髪と赤い瞳の少女のポスターが貼られまくれ、同じ少女のフィギュア が所狭しと並べられたその部屋に、ソニアは軽い目眩を覚えた。  机についたまま、キースは眠っていた。プレイステーションのコントローラー はその手に握りっぱなしになっており、ディスプレイには「僕たち友達だよね」 と、さわやかに微笑むかわいらしい少年の姿が表示されている。 「もう……(怒)。あまり無理をされると、お身体にさわりますよっ!」  こめかみに怒りの四つ角を浮かべつつも、ソニアは毛布を取って、キースに かけようと近づいた。  その時、キースが何かつぶやく。 「……琴音ちゃぁん……。せっかく救ってあげようと思っているのにぃ……。 こんなに大好きなのにぃ……。なんで出てこなくなるんだぁ……」 ぶちぃっ!!  ソニアの中で、何かがキレた。  次の瞬間、キースの部屋は轟音に包まれた。  翌朝。  キースは目を覚ました。  キッチンへ向かうと、すでにウォンが新聞を読んでいた。 「おはようございます、キースさま。……おや、急にアフロヘアになさって、 いったいどうされたのです?」 「いや、わたしにもよくわからないのだが、朝起きたらいつのまにか……」  その日一日、なぜかソニアは不機嫌だったという。 おしまい

Feeling Heart

 ノア本部のある夜。  廊下を歩いていたソニアは、キースの部屋から明かりが漏れているのに気付 いた。 「まだ起きていらっしゃるのですか? キースさま?」  軽くノックして部屋を覗くソニア。  殺風景なキースの部屋。  机についたまま、キースは眠っていた。パソコンの電源は入れっぱなしになっ ており、ディスプレイには今後の計画についての書類が表示されている。 「もう……。あまり無理をされると、お身体にさわりますよ」  ソニアは毛布を取って、キースにかけようと近づいた。  その時、キースが何かつぶやく。 「……ソニア……」 「え? い、いやだ、キースさま、起きていらしたのですか?」  顔をまっかにしてうろたえるソニア。しかし、キースは起き上がってはこず、 またすうすうと寝息をたてはじめた。 「な、なんだ、寝言だったの……」  どぎまぎしながら、ソニアは今度こそキースに毛布をかけた。 「あなたにはサイキッカーの未来がかかっています。お身体には気をつけてく ださいね」  眠るキースの耳元でそっとつぶやくと、ソニアは部屋を出た。  翌朝。  キースは目を覚ました。 「う……ん……。いけない、眠ってしまったか……。ん? この毛布は……」  キースの脳裏に、ひとりの女性の姿が浮かんだ。  やさしさとあたたかさのこもった毛布をベッドに戻すと、キースは礼を言う べくキッチンへと向かった。 Fin