第1話「すべての終わり・すべての始まり」A
それは10年前のこと。 当時大学生だった橋本博士は、偶然にもトゥハート線の採取に成功した。 トゥハート線は未来のエネルギーとして期待され、来栖川重工が開発してい た宇宙開発用のロボットにも採用されることになった。 その1年後。人類はかつてない危機に見舞われることになった。 突如、宇宙からやって来た侵略者(インベーダー)が、地球侵略を開始した のである。 月は瞬く間に占拠され、その魔の手は地球にも及ぼうとしていた。 国連は世界各国に協力を要請、技術の粋を集めたロボットが世界中で作られ た。 スーパーロボット軍団の誕生である。 日本からは来栖川重工が宇宙開発用に設計していたロボットを強化改良し、 戦闘ロボットとなった「トゥハートロボ」が誕生した。 トゥハートロボは、3つのロケットマシン ── イーグル号、ジャガー号、 ベアー号 ── が3通りの合体をし、空戦用の「トゥハート1(ワン)」、 陸戦用の「トゥハート2(ツー)」、海戦用の「トゥハート3(スリー)」の 3形態になることができる、画期的なロボットであった。 パイロットには若き少年少女たちが選ばれた。 イーグル号とトゥハート1には藤田浩之。 ジャガー号とトゥハート2には長岡志保。 ベアー号とトゥハート3には佐藤雅史。 そして、予備パイロットに神岸あかり。 3年に及ぶ月面戦争の末、人類は辛くも勝利した。インベーダーを全滅させ ることに成功したのである。 人類滅亡の危機は過ぎ去ったかに見えた。 だが……。 =================================== 真(チェンジ!!)トゥハートロボ 第1話「すべての終わり・すべての始まり」 この作品は、リーフ製コンピューターゲーム「To Heart」およびバンダイビジュ アル製オリジナルビデオアニメ「真ゲッターロボ」のパロディです =================================== すべては、ある嵐の夜に始まった。 トゥハート線研究の第一人者である橋本博士が殺されたのである。 偶然居合わせたメイドロボの証言とメモリーに記録されていた映像から、犯 人は元トゥハートロボのパイロット藤田浩之と判明した。 浩之は終身刑を言い渡され、永久刑務所入りとなった。 今から3年前のことである。 「こちら輸送班。予定通りに進行中。どうぞ」 『了解。準備も予定通り。計画どおりにすすめられたし』 「了解」 降りしきる雨のなか、一台の巨大なトレーラーが山道を走っていた。 運転席には一組の男女。共にKSS(来栖川セキュリティサービス)の制服 を着ている。 定時連絡を終えた助手席の女性は、ふう、と息をついた。 そして、隣で運転する男性に話しかける。 「いったい何事なんだろうね、雅史ちゃん。こんなに厳重な体制なんて」 「わからないよ。元トゥハートチームのぼくとあかりちゃんが呼び出されたん だから、ただごとじゃあないだろうけど」 あかりは窓の外を見た。あいかわらず雨は降り続き、遠くで雷がなっている。 「……3年前のあのときも、こんな嵐の晩だったね……」 雨の中、多くの警官に引きずられていく浩之。必死に彼の無実を主張したが、 聞き入れてもらえなかった。 無理もない。彼が無実である証拠は、なにひとつなかったのだから。 「あのころは…… 楽しかったのに……」 「……やめようよ、あかりちゃん。もう忘れよう」 雅史の方を向いたあかりは、声をあげた。 「雅史ちゃんだって、浩之ちゃんがやったとは思っていないんでしょう! だっ たら!」 「いいから忘れるんだ! その方がいい!」 車内に一瞬の静寂。雅史はゆっくりとつぶやく。 「……理緒ちゃんが死んだことも……」 車内に沈黙が訪れる。 そんなふたりは、道沿いにあった大木が消えていることに気がつかなかった。 「かつて、雷のみが愛しい死者に再び生命の灯し火を与えることのできる唯一 のものと信じられていた時代がありました。もちろん、物語の中の世界で、で すが」 「だが、物語と現実を隔てていた壁は崩れ落ちたのだ」 来栖川重工研究所の一室で、男女が話していた。 女はテーブルの上にあった割れたグラスの破片を右手に握った。 「しかし、彼女は血を流すことができますか? そう、ひととして……」 女の右手から血が流れだす。 「……さあな。それこそ神のみぞ知ると言ったところか……」 あかりと雅史は目的地である来栖川重工研究所に到着した。その時には雨も あがっていた。 ふたりはトレーラーのコンテナに大きな箱が積み込まれるその間、KSSの 隊員たちとともに警戒をしていた。 「な、なんだ、あれは!」 誰かの声に、一同はそちらを見る。そこに立っていた大きな樹木が変貌を開 始し、巨大な怪獣になったのである。 『キシャアァァァァァ!』 怪物が叫ぶと、身体中から無数の矢が撃ちだされた。何人もの隊員たちが、 その矢に撃ち抜かれる。 あかりと雅史は木の影に隠れた。 「あ、あれは、インベーダー!」 「そ、そんな! 全滅させたはずじゃあ!」 生き残った隊員たちとともに発砲を開始するが、インベーダーにダメージは なかった。 「あかりくん! 佐藤くん! 何をやっているんだ! はやく、はやく車を!」 突然、建物のほうから声がかかった。ふたりがそちらを見ると、ひとりの男 が叫んでいる。 「な、長瀬さん!」 「どうして!」 「はやく車を出せ! こいつらに奪われては…… うわぁ!」 その男、長瀬源五郎は、建物に駆け寄ってきたインベーダーに捕らえられた。 その時、その隣の建物の天井が開きはじめた。中から巨大なドリルが姿を見 せる。 ドリルアームがインベーダーを貫いた。ドリルの持ち主である巨大ロボット が、建物のなかからゆっくりと出てきた。 ロボットは左手のクローで長瀬を救い出すと、本格的に攻撃を開始する。 「な、なぜ、『こいつ』がこんなところに……」 「雅史ちゃん、それよりもはやく!」 あかりと雅史はトレーラーに飛び乗ると、急発進をさせた。 「あとは頼んだぞ! あかりくん! 佐藤くん!」 激化するロボットと怪物の戦いを背に、あかりと雅史はトレーラーを走らせ た。 あかりと雅史、そして、大きな箱を乗せたトレーラーは、トンネル内を走っ ていた。 「雅史ちゃん、見た? あれは確かに『トゥハート2』だよ……」 「うん……。でも問題は、あれに誰が乗っていたのかってことだよ」 トンネルを抜け、再び夜道を走ろうとするトレーラー。 その時、トンネルの上から何かがトレーラーのコンテナの上に落ちてきた。 あかりと雅史はその振動に驚いたが、すぐにモニターを使って原因を確かめた。 落ちてきたものは、先ほどとはまた別のインベーダーであった。 「しまった、待ち伏せ!」 インベーダーはその両手を刃物状に変形させ、コンテナの屋根を壊しはじめ た。 「荷物を狙っているんだわ!」 「そうはさせない!」 インベーダーを振り落とそうと、雅史はハンドルを右に左にと切った。しか し、インベーダーは平気で屋根を壊す作業を続けていた。 あかりがパネルを操作すると、トレーラーの屋根にミサイルポッドが現れた。 ミサイルがインベーダに向かって発射されるが、インベーダーは体を変形させ てそれをやりすごす。 「だめだわ!」 「あかりちゃん、ハンドルを頼むよ! ぼくがやる!」 「わ、わかった!」 雅史が座っていたシートが後ろへ移動し、コンテナの中へと消えていく。 そのころ、インベーダーはコンテナの天井を剥がし、目的の箱を見つけてい た。その箱をつかみ、外へ取り出そうとする。 突然、コンテナの側面が破れ、そこから蛇腹状のパイプのようなものが飛び 出した。その蛇腹はあっというまにインベーダーをがんじがらめに捕らえる。 「いくぞ、トゥハート3!」 雅史がレバーを倒すと、コンテナの中からトゥハート3がその姿を現した。 インベーダーをとらえた蛇腹は、トゥハート3の腕だったのだ。 雅史が乗ったトゥハート3がさらに締め上げると、インベーダーが悲鳴を上 げた。インベーダーがつかんでいた箱をトゥハート3がつかみ返す。 「悪いけど、こいつは渡せないんだ……。うん?」 雅史はモニターに映っている箱が少し壊れていることに気づいた。その隙間 から中にカプセル状の物があることが見て取れた。そして、そのカプセルの中 に人影があることにも気づいた。 「あ、あれは!」 「雅史ちゃん、どうしたの? ――ん?」 あかりは前方に巨大な「影」を見つけた。その「影」はカーブの外側に仁王 立ちをしていた。 「な、なに、あれ!」 カーブにあわせてハンドルを切るあかり。インベーダーとトゥハート3を乗 せたコンテナが大きく横に滑る。 「影」は大きく右腕を振り上げ…… トゥハート3に殴りかかった! 「なっ!」 殴られたトゥハート3がコンテナの上から吹き飛ばされる。 「うわああああ!」 「雅史ちゃん!」 トゥハート3がつかんでいた箱がこぼれ落ち、地面に落ちて壊れた。中に入っ ていたカプセルが転がる。 遠くで光った稲光が「影」を照らしだす。吹き飛ばされながら、雅史はその 姿を確認した。 「ぼくの…… ぼくの知らない…… トゥハートロボ!!」 次の瞬間、トゥハート3は後ろにあった岩肌に叩きつけられた。 「がっ!」 背中から叩きつけられた衝撃に、雅史は血を吐いて気を失った。 「雅史ちゃん!」 急ブレーキをかけてトレーラーを止めたあかりは、その様子を見て叫んだ。 インベーダーはコンテナから飛び降り、地面に転がったカプセルをつかんで 逃げ去ろうとしていた。 しかし「影」があっという間に追いつき、インベーダーを襲った。 トレーラーから降りたあかりは、信じられない光景を見た。 「影」はインベーダーを易々と引き裂いたのである。信じられないパワーで あった。その闘いは1分もかからずに終わった。 そして「影」はインベーダーからカプセルを奪い取った。 あかりは「影」の胸にあるハッチが開き、そこから人影が現れたのを見た。 再び光った稲光が、その人影を照らしだした。 「そ、そんな!」 その姿は、3年前に死んだはずの男だった。 巨大な「影」の背中に翼が開き、一瞬にして大空に舞い上がった。 そして、そのまま飛び去っていったのである。 再び雨が降りだした。あかりはその雨のなか、茫然と立っていた。
コメントする